透析患者に起こる透析回路中の残血症状発症のメカニズムに対する覚書
1.はじめに
透析患者の中には、DIC・HITを有する患者もあるようです。今のところ私は、DIC・HITではなさそうです。
しかし、今から6年前突然透析回路のAチャンパ・ダイライザ等に残血が起こり始めた。
先達からのご教示で、AT・凝固系・透析による血液濃縮による凝血等を疑いましたが、ややATの減少は見られましたが、それ以外の残血に関わる
要因は見いだせないでいます。
今一度、透析中の残血発症メカニズムを検討してみたいと思い立ちました。
2.透析患者に起こり易い残血
詳しくは、 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth1990/10/1/10_1_36/_pdf を参照されたい。この論文は、1999年発表であり、今から20年程前
のものであり、多少研究は、進んでいると思われます。
上記PDFから透析患者に関わる個所を抜き出してみた。
「 末期腎不全から維持透析を受けている患者は、出血傾向の病態ではなく、透析回路内の凝血発生や生命予後の延長に伴う動脈硬化進展に対
する凝固亢進の役割について解明が進められるようになった。まず、動脈硬化の終末像として、心、脳の血栓症のリスクファクターである第VII因子
について検討してみた。すると、第VII因子凝固活性(FVIIc)は抗原量(FVIIag)とともに増加している。また,虚血性心疾患合併例ではさらに高値を示し
ている。
そして、VHcの増加は、プロトロンビン活性化フラグメント(F1+2)とも相関している。
FVIIの活性化は内皮細胞の傷害と関係しており、末期腎不全でのFVIIaの上昇は、心管系のリスクを増大させることに関係している。透析者の高FVIIa
血症は、透析中の抗凝固剤としてヘパリンを使用すると低下する。ヘパリンの直接作用かもしくは組織因子系凝固阻害物質(TFPI)を介する作用が考
えられる。TFPIは、活性化FXの活性中心と複合体を形成し、FVIIa+組織因子の活性を阻害する.生体内でのTFPIの作用部位は、損傷血管で組織因
子の発現による止血栓の形成を局所に限定する機能を有している。
末期腎不全ではTFPI活性は上昇しており,腎不全の進行とともに増加する。TFPIの増加の因として、@FVIIの増加に基づく反応性の増加、A尿毒症
性毒素による血管内皮からの遊離の増加と排泄遅延、B透析者でのヘパリンの反復使用による血管内皮からの遊離の増加が推定されている。また
、回路内で生成されたトロンビンが内皮からのTFPIの遊離を促進させるのではないか、の報告もあるが、通常は至適な抗凝固状態ではトロンビンの
生成はごくわずかで、TFPIの増加の原因と考え難い。また、腎不全でのTFPIの増加が、尿毒症の出血傾向と関係があるかどうかは不明である。
TFPIは血管内皮上のヘパラン硫酸と荷電により結合しているため、ヘパリン投与により血中へたやすく遊離する。ヘパリンにより遊離したTFPIは、
リポ蛋白と非結合型で、抗凝固活性は強い。
リボ蛋白<Lp(a)>は凝固の活性化と関係している。炎症、脂質、凝固が互いに関連しながら、透析者の心血管系のリスクが増大する。しかし、
透析前で、CRP、シアル酸、IL-6、Lp(a)を測定したところ、有意の変化は認めていない。透析を反復するとによって単球の活性化の影響が積み重ね
られ、透析前のサイトカイン高値につながることも予想できる。
透析中の末期腎不全では、組織因子、FVIIa、FVIIc、TFPI活性と並んで、活性化第XII因子(FXIIa)も増加している。FXIIの活性化は、体外循環回路
内で起こり、内因系と外因系の凝固、線溶、キニン生成,補体活性化を引き起こす。
透析者では、フィブリノペプイドA(FPA)、TAT、F1+2が有意に高く凝固亢進状態を示している。この成因として、基礎疾患として存在する。末期腎不
全に合併する動脈硬化の影響による内因系凝固反応の亢進とならんで外因系の凝固活性化も関係していることが推定できる。
ATVが70%以下では、回路内凝血トラブルが生じる。この場合は、ヘパリンの増量は無効で、ATV濃縮製剤による補充が行われていた。しかし、
安全な抗トロンビン剤が開発され、ATV濃縮製剤+ヘパリンに代わって、アルガトロバンが用いられている。PMNエラスターゼは、透析器の人工膜面
上で白血球から放出され、一部はα1アンチトリプシンで中和されるが、そのプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)作用によりATVが失活、凝固系が活
性化されトロンビンが生成される。
また、ヘパリンの存在下でATVの失活が増強することから、回路内に凝血が発生する。この場合もATV濃縮製剤+ヘパリンに代わってアルガトロバ
ンを用いると回路内凝血を避けることができる。」と。
* 「血液透析中にみられるPMN-E(PMNエラスターゼ)の上昇の機序として一部ビタミンD3剤,Ca剤や清Ca濃度の変化が関与する可能性が示唆された。
Ca剤、
Vit D剤の検討ではVit D剤を投与した時期にPMNエラスターゼが有意に低かった。」
( https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt1985/22/11/22_11_1195/_pdf より抜粋 )
「P
M N- E は分子量約3 7 0 0 0 のセリン蛋白分解酵素であり、多核頼粒球のアズール額粒に含まれ,
炎症その他の刺激を受けると細胞外へ放出さ
れる。凝固線溶に関するP M N- E の作用は, 凝固冗進・抑制,
線溶克進・抑制のいずれの方向へも働き得る。 同時にP M N- E は血管内皮細胞のプロ
テオグリカン(
ヘパリンやへパラン硫酸) やT M
(トロソボモジュリソ)による血栓防御機構を破壊する可能性が報告されている。
血中ではP M N- E はα 1 P
r O tei n as ei n h ibit er ( a lP I)
に結合し不括化された複合体として存在する。」
「T M は分子量約1 0 5 00 0
の血管内皮特異性膜蛋白であり, 脳を除く全身の血管内皮細胞膜上に存在し, トロンビンと高い親和性を示す.。T M
と結合
したトロソビンはフィプリン形成能, 第Z , X 国子活性化能, 血小板活性化能等の凝固促進作用を失い、逆にP
C(プロテインC) を活性化することにより
抗凝固作用を呈する。T M は血中, 尿中にも活性のない形で存在するが,
血管内皮細胞が損傷を受けると血中への出現量が増加する。」
「血管内皮細胞障害の原因として,
透析による内因性凝固機序の活性化によって生じたトロンビンや,
顆粒球からのエラスターゼの放出が関与している可
能性が考えられる。」 ( 以上は、慢性透析患者に
おける ダイ ア ラ イ ザ ー 内残血量と凝固 ・ 線溶能の関連 kanazawa-u.repo.nii.ac.jp/?action...uri...1
金沢大学十全医学会雑誌第1
01 巻第1 号1 0 0 - 1 10 (1 9 9
2) からの引用。)*
論文発表は、1992年或いは1999年であり、相当早くから透析回路内の凝血については、研究されていたようです。今(平成30年1月現在)から20数年
前や20年弱前に究明されつつあった事柄であることを知りえた。
3.論文を読んで
論文発表年は、1999年。今から20年弱前、こうした研究はもっと進んでいると思われます。
しかし、既に20年弱前からATVが70%以下では、回路内凝血トラブルが生ずる事は、分かっていたかのようです。私の透析回路に残血が出始めたのは、
今から6年前の事。既に70%以下では、残血の為透析不能等のトラブルが起こるという指摘は、発表されていた。とすれば、70%台では、透析トラブルには
至らないまでも、残血が出現する可能性が有ろう事は推測出来えたのではなかろうか。何故当院Drは、私の透析中に回路内凝血が起こり始めた時、こうした
事柄を指摘して貰えなかったのだろうか。何故か「残血が出るのかは、分からない。」という事しか言われなかった。挙句、透析に支障がなければ、このまま様
子見でいいのでは・・・・とも言われていた。仕方がないので、私自身で、自費でのATV検査を依頼する事にした。そうしないと当医院Drから許可が出ない状況
でありましたから。
患者には、オブラートに包んだような説明が多く、内分泌に関わる事は、まだまだ未解明な事柄も多く、解明されていない事柄まで説明して欲しいとは考え
ませんが、ある程度究明されている事柄は、患者に説明したり、指摘されてもいいように思うのでありますが、そうした事が、ほとんど無いのが現状。
良いように解釈すれば、話したところで、患者さんには理解できないとお思いだったのであろうか。
*
上記論文を読んで、直ぐに思ったのは、「PMNエラスターゼは、そのプロテアーゼ作用によりATVが失活。」する。また、「凝固系が活性化されトロンビンが
生成される。」とすれば、フィブリノーゲンも活性化し、ATは、活性を中和する為にフィブリノーゲン・AT複合体を形成し、更にATは、減少するのではなかろう
かと。透析前後のヒブリノーゲン・AT複合体の数値を血液検査にて調べれば、健常者の数値より亢進している数値であれば、AT減少の証明になるのではな
かろうかと。素人の思いつきにすぎませんが・・・。後日、1992年 金沢大学医学部内科学第三講座(
主任: 松田保教授) 山崎雅英( 平成4 年1 月1 0 日受
付)の論文にて確認する事が可能だと確信致しました。*